『第44話「寂しがり屋」』
京の地を照らしていた茜色の夕日はとうに沈み、やがて訪れた夜の闇が一層濃くなりつつある時間となった。
だが、祭で賑わう京の都は眠らない。
次第に濃くなる夜の闇を提灯の淡い光が周囲を優しく照らす。
人々は時間も忘れて、より一層祭に興じるのだった。
そんな中、たった1人の男だけ祭を楽しむそれとは正反対に暗い雰囲気を醸し出していた。
その後ろを娘が必死に追いかける。
「待ってよ毛ちゃん…!待ってってばー!!」
後ろから自分を呼び掛けるを完璧無視、そのまま放置して器用に道行く人々を避けながらさっさと歩く元就。
そして、そんな元就を見失わないように必至に追いかける。
時々、町人とぶつかったり、こけそうになったりで見ていて危なっかしい。
2人の距離は、縮まるどころか逆にどんどん広がっていった。
折角見つけたのに、このままではまたはぐれてしまう。
かと言って今の状態では追いつけそうにもない。
仮に追いついたところで元就が素直に自分に付いてきてくれるかどうかも怪しいところである。
どうしようと悩みながら歩を進めていると、元就の姿が人混みの中へと消えていこうとしていた。
「ヤバい…!マジで見失っちゃう!」
焦ったは、この後とんでもない行動に走ってしまうのだった。
自分の後を追っていたの声が、だんだん小さくなっていき、完全に聞こえなくなった。
「やっと五月蠅い小娘がいなくなった…」と元就は安堵し、歩くスピードを徐々に落としていく。
が、それと同時に僅かな孤独感も感じられた。
今までには感じた事のないものだった。
独りは慣れているのに、今更になって何故。
きっと五月蠅いのがいなくなって静かになったからだ、気のせいだと自分自身に言い聞かせた。
ふと周囲を見渡すと、この目に映るのは祭を楽しむ家族・恋人・友で溢れている。
皆、楽しそうに笑い合っていた。
対する自分はたった独り、仏頂面で立ち尽くしている。
人混みの中、たった独り。
…認めたくない。
今、自分が一瞬でも「寂しい」と思ったなど。
他人は駒、信じられるのは己一人、友などいらない。
そう思って今まで生きてきた自分が「寂しい」なんて…。
考えていく内に目頭がだんだん熱くなってきた。
泣きそうになっている自分がいた。
溢れそうになった感情を押し殺して再び歩を進めようとしたその矢先―…。
「毛ちゃんの馬鹿ー!!!
か弱い女の子が折角探しに来たのに放置してそのまま先に行くとは何事かー!?」
「なっ…!?」
突然、後ろから聞こえてきたの馬鹿デカい声。
先程まで元就を呼んでいた声の数倍大きな、
それでいて鼓膜をも突き破りそうな勢いのあるかん高い声である。
その声は次々と元就の耳に聞こえてきた。
「鬼畜ー!!オクラの妖精ー!!緑色のとんがりコーン!!(←?)」
の予想外の行動についていけていないのか、石の如く固まるオクラの妖精。
その間にも聞こえてくる元就への怒声と罵声が周りに容赦なく響き渡る。
周囲の人々は突然の事に呆気に取られながら、叫び続けるを見ていた。
「私が来た時、何か寂しそうな顔してたくせにー!ひねくれ者ー!」
「親ちゃんじゃなくて私が来たもんだから、内心凄い落胆してたんでしょー!?」
「迎えに来たのが親ちゃんだったら毛ちゃんは絶対飛びついてたと私は思うんだけど、
そこんとこどうなのよー!?」
…訂正しよう。
怒声と罵声と腐女子発言だった。
「黙って聞いていれば好き放題言いおって!!きゃんきゃん喚くな馬鹿娘が!!
誰が寂しがっていただと!?後、その思考をどうにかしろ!!」
「毛ちゃん!」
気の短い元就は我を忘れて、に負けず劣らずの大声で言い返してしまった。
反応してくれた事が嬉しかったのか、途端にの顔が笑顔になる。
背景には可愛らしい花が沢山咲いているように見えた。
「しまった」と元就は己の行動に激しく後悔した。
これでは「か弱い女の子が折角探しに来たのに放置してそのまま先に行く男」が
誰なのか周囲にモロばれではないか。
案の定、周囲から聞こえてくるのは「酷い男ねぇ」「最低な野郎だ」等のお約束な言葉のオンパレード。
そればかりではない、冷凍ビーム並の冷たい視線まで四方八方から感じる。
「ちっ」と舌打ちすると元就は、棒立ちだったの手を乱暴に取り、逃げるようにその場を後にした。
「貴様!一体どういうつもりだ!?」
表通りから少し外れた人気の少ない薄暗い場所まで来ると元就は唐突に怒鳴り出した。
怒り心頭と言ったところか、般若の如き顔付きになってしまっている。
元親が見たら泣きながら逃げるところだろう。
流石にも「やり過ぎたか…」と思いつつ、元就の問いに小声でボソリと答えた。
「…だって…毛ちゃん先に行くから…」
のその姿はまるで「悪い事をして母親に怒られて、ふてくされた子供」のよう。
の態度に呆れ返り、元就は深い溜息をついた。
そして、しばしの沈黙があった後、元就はに問うた。
「…何故我に近づこうとする。一体何が目的だ?」
「目的?それは勿論!毛ちゃんと仲良くなりたいからに決まってるじゃない!」
「茶化すな小娘!!嘘を言うでない!!」
元就の怒声が一際強く、そして大きくなった。
の言葉が到底信じられないのだ。
人を駒としか見ていない自分と仲良くなりたいなどと。
馬鹿馬鹿しいにも程がある、寝言は寝てから言って貰いたい。
第一、他の者達は怯えて近寄ってもこないというのに。
全否定した元就だったが、それに怯む事なくは真剣な表情で言った。
「本当だよ、嘘じゃない」と。
寧ろ戦国時代に来てから、ずっと思っていた事なのだ。
皆に会ったら仲良くなりたい。
しかし元就は、そんなの言葉に全く耳を傾けようとせず、更に問いただした。
「仮に我と【仲良く】なったところで、お前に何の得がある!?」
「得?いっぱいあるよ〜。毛ちゃんと仲良くなったら一緒にどっか遊びに行けるでしょ、
御飯食べたり、お散歩したり、色んな話したり、それからそれから…」
「御昼寝」だの「皆で鍛練」だのと、そのような事を延々と言い続ける。
返ってきた答えに元就は、拍子抜けしてしまった。
てっきり裏があるのだとばかり思っていたのだが、予想外の言葉が返ってきた。
どう返していいか正直分からなかったが、それでも元就の気持ちは変わらない。
少々、苦し紛れに言い返した。
「ふ…ふん!貴様がどう言おうと信用出来んな!」
「毛ちゃん…」
何を言っても聞いてくれない。
そんな元就を見て、は思う。
どうすれば貴方に、この気持ちが伝わるだろうか?
どうすれば貴方は私の言う事を信じてくれる?
どうすれば貴方は心を開いてくれる?
どうすれば…
「はっ離せ!何をする!?」
気が付けばは、元就を抱きしめていた。
無意識の内に、体が勝手に動いた。
対する元就は、いきなりの事に驚きを隠せず酷く動揺している。
離れようともがいたものの、は一向に離してくれそうにない。
真夏だというにも関わらず「暑い」とは全く感じなかった。
寧ろ、心がとても『温かく』感じられる。
「こっ…言葉じゃ伝わらないみたいだから態度で示してみたっ…///
毛ちゃんが私の事嫌いでも、私は毛ちゃんの事大好きだからね!!」
「大好き」と言われて不覚にも嬉しく思ってしまった。
こんな言葉を人に言われるのは生まれて初めてではないだろうか。
顔が熱くて堪らない。
心なしか鼓動がいつもより早い気がする。
今、と顔を合わせるのが何だか気恥ずかしいとさえ思った。
認めるのは癪だと思いつつ、自分はこの娘に「落ちて」しまった事を自覚した。
「…貴様という女は……………もう勝手にしろ」
「うん、勝手にする♪」
この瞬間から元就にとってという女は「トクベツ」な存在に変わったのだった。
「じゃあ改めまして…これからも宜しく毛ちゃん!」
「ちょっ…調子に乗るでないわ馬鹿娘がっ!!」
「ぁいたっいたたたたっ!!」
ようやく元就から離れたかと思いきや、嬉しさの余り再び元就に抱きつこうとする。
だが、元就のハタキ攻撃によって妨害され未遂に終わったのだった。
ハタキ攻撃は相変わらず容赦がない。
と、そこへ慶次達がやってきた。
「おっ、いたいた2人共〜こんな所にいたとはね」
「慶兄!?それに皆も!」
「なかなか戻ってこないから心配して迎えに来たんだ。何かあったんじゃないかって思ってね」
「御免ね、心配かけて」
は、すれ違い覚悟で自分達を探しに来てくれた皆に謝った。
佐助は「やれやれ」と言いつつも見つかった事に心から安堵している。
最初は2人が何処にいるのか分からなかったらしいが、
ハタキのバシバシ叩く音で一発で分かったのだという。
「殿ー!!」
幸村が突進するような勢いで駆け寄ってきた。
今にもに抱きつきそうになったので、佐助が幸村の首根っこを掴んで止めたのだが。
それを見てと慶次は笑っている。
しかし、元親だけは…。
「さっきから気になってたんだけどよ…そんな薄暗い所で2人して今まで何やってたんだよ!?」
「え?別に…毛ちゃんと話してただけだけど?」
何やら腑に落ちない西海の鬼。
すすす…と元就の隣に寄ると小声でボソリと聞いた。
「就ちゃん…まさかとは思うけどよ、に何もしてねえよな?」
「何をすると言うのだ、散れ!!」とでも怒声が飛んでくるのかと思いきや、
元就は意味ありげな笑み(元親から見たら凶悪な笑みだったが)を浮かべ、「ふん、さぁな」と答えた。
明らかに「何かあった」という事を意味している。
一体、自分達がいない間に何があったのか。
姫若子が未だ抜け切れない乙女思考の元親は、あらぬ事を考えてしまったのか、
みるみる真っ青な顔になっていった。
「就ちゃあああああん!!!」
京の空に元親の悲鳴が響き渡ったのだった。
祭は、まだ終わりそうにない。
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お待たせしました、祭篇最終話UPです。
最後の更新から半年以上とは…だいぶ打ってなかったので
今後、夢小説の更新を出来るだけ頑張りたいと思います;;
さて京の都篇終了しましたー。
元就とのやり取りを書くのが難しくて本気で泣きそうになりました;;
何度、指が止まったか…(遠い目)
元就は仲良くなるまでが滅茶苦茶大変そうですね(苦笑)
んで一度仲良くなると、独占欲全開になりそうなオクラさん。
と言うか恥ずかしさでいっぱいでございます///
こんな駄文で御免なさい!!
次回からは松永こと松ちゃんを登場させて「竜の宝」篇を始めたいと思いますv
ゲーム版小十郎をいっぱい出したい今日この頃。
ブラウザでお戻り下さい。