『「お命頂戴!〜米沢城に突撃篇〜」』
武田軍と上杉軍が川中島にてついに激突、
その上、奥州筆頭伊達政宗が乱入し戦場は混乱に陥ってしまった中、お兄ちゃんが瀕死の状態で本陣に帰ってきた。
どうやら伊達政宗の攻撃を喰らったらしい、全身ズタボロで鎧からは焦げた臭いがかすかにする。
戦況の報告をした直後、「俺様…少…し休憩させて…貰うよ」と途切れ途切れで言い残し
その場に倒れてしまったお兄ちゃんの顔は血の気が失せて、まるで死人のようだった。
ピクリとも動かないし呼んでも全く反応がない。
周囲にいた兵士達がざわめく中、無我夢中で応急処置を行う私。
お兄ちゃんは私の唯一の家族であり母親代わりでもあった。
そしてドジでどうしようもない私を一流のくの一に育ててくれた師匠のような存在。
こんな所で死んで欲しくない、死なせたくない。
世界で一番大切な人をこんな風にした伊達政宗をあたしは許さない。
絶対許すもんか。
猿飛の名にかけてお兄ちゃんの仇を討つんだから!
「いや俺様まだ死んでないから!」
番外編【お命頂戴!】
川中島の乱戦が終わって数日が経った。
早朝、佐助の看病を任されている才蔵は今日も佐助の元へと足を運ぶ。
最初は妹のが「看病をする!」と言っていたが、それは皆に却下されてしまった。
それは何故か。
実は以前幸村が珍しく(強調)風邪を引いた時の事である。
ドジっ子で有名な彼女は、佐助が任務中でいないという事もあり率先して幸村の看病を努めていたのだが、
逆に風邪を物すご〜く悪化させて皆が大騒ぎになった前科があるからだ。
看病しているはずなのに何処をどうしたら悪化させてしまうのか、小1時間問い詰めたいところだ。
そんな彼女に佐助の看病をさせたら再起不能になってしまうのではないかという
一抹の不安があったので才蔵がする事になった。
そして、かれこれもう1週間以上は経つ。
彼の傷は少しずつ癒えてはいるものの、まだ油断は出来ない状態だ。
暫くして佐助の部屋に着いた才蔵の気配に気づいたのか既に目を覚ましていた部屋の主が声をかけてきた。
「…才蔵?」
「あぁ俺だ、入るぞ」
「どうぞー」
静かに障子を開け、才蔵は部屋に入る。
怪我で満足に動けない佐助は寝たままの状態で「おはよう」と入ってきた才蔵に挨拶をした。
「気分はどうだ?」
「お陰さまで、だいぶ良くなったよ…と言いたい所だけどまだ駄目みたいだね」
ははっと軽く笑い、「これじゃあ体がナマる」だの「働けないから給料貰えない」だのとボヤいている分マシになった方だ。
甲斐に戻って2〜3日は全身の激痛のせいもあって何も喋らなかったのだから。
才蔵は佐助と他愛ない話を交わした後、懐から一通の文を取り出し佐助に差し出した。
「からお前宛に文を預かっている」
「え、が?」
「正確には置き間違えたんだろうな…「お兄ちゃん江」と書かれた文が俺の部屋に置かれていた」
「置き間違えたんだね。全くそそっかしいんだからなぁ、ははは。悪いけど読んでくんないかな」
「分かった、読むぞ」
今の佐助は腕一本満足に動かせない状態な為、才蔵は静かにその文の内容を読み上げた。
文に書かれた内容は「は伊達政宗を討ちに行きます故、暫く城を留守にします」というものだった。
読み終えた後、二人の間にしばしの沈黙が続く。
木の葉が舞い落ちた音だけが障子越しから聞こえてきた。
やがて才蔵は「ふぅ…」と軽く溜息をつき、「エライ事になってしまったな」と遠い目をしながら文を佐助の枕元にそっと置いた。
対する佐助は混乱し過ぎて口では表現出来ない程、顔がエライ事になっている。
「ちょっ…冗談止めてよ、が竜の旦那のとこへ○×△□☆Ω!!!???」
「最後の部分、噛み過ぎて何を言ってるのか分からんぞ真田十勇士隊長殿。しかし…困ったものだな。
討つなどと簡単に言っているが幸村様と互角と言われる蒼き龍に敵うはずがないだろうに。
忍はどんな時でも己を殺し、主君より与えられた任務は命に代えても遂行させると習ったはずだが…」
「たっ…確かに白雲斎先生からはそう習ったよ。
だけど俺様はあえてその事をには教えてない。そんな子になって欲しくないからさー」
今までには暗殺という任務は一切させず、情報収集や潜入といったものしか与えなかった。
そういう仕事は全部自分達が率先してこなしている。
任務とはいえ可愛い妹に人殺しなどさせたくない。
そもそもが「くの一になりたい!」と言いだした時点で佐助は反対だった。
普通の女子のまま育って欲しかったのが兄の本音。
が自分を幸せにしてくれる男と巡り逢い、誰もがうらやむようなそんな家庭を築いてくれれば佐助としては万々歳なのだ。
「そんな事を言ってはいるが…嫁に出す気など更々ないだろう?」
「ははっ流石才蔵。可愛いあまり手放せなくてねー」
「参ったね、こりゃ」と佐助は苦笑いする。
そんな佐助を見て才蔵は黙ったままだ。
この男は気付いているだろうか?
最近、を見る目が兄としてではなくなってきてるという事を…。
きっとそれに気付いているのは自分だけではないはず。
恐らく信玄公や十蔵辺りは自分と同じ考えでいるだろう。
「お前がの話をし出すと長いからな、俺は退散する。仕事もあるしな」
才蔵が部屋から出て行こうとすると佐助が引き止めた。
「あっ才蔵、任務ついでに一つ頼まれて欲しい事があるんだけど」
「を連れ戻してこい…だろう?言われなくてもそうするつもりだ。俺がいない間は六郎や小介が面倒を見てくれる」
「悪いねえ」
いつものように笑ってはいるが、心配で仕方がないという感情が会話越しに伝わってくる。
きっと自分が行きたくてたまらないのだろうが…。
だが瀕死の重傷を負った彼の体は医師から「絶対安静」と言われているので、無理をさせる訳にはいかない。
佐助は真田十勇士の長、死なれては困る。
彼は武田にとって最後の砦、必要不可欠な存在なのだから。
…色んな意味で。
「…問題はの足の速さが真田忍軍では随一という事…果たして追いつけるか…」
が政宗に襲いかかる前に何としてでも止めなくては…。
ここを発ったのが夜中だと仮定して………間に合わないような気がする…。
その予感は見事的中する事になるのだった。
が甲斐を発ってから数日後の夜、奥州・米沢城の一角では
リラックマサムネが間違った歌詞で鼻歌を歌いながら英語のドリルをしていた。
ちなみに本人はノリノリで歌っているが音程は無茶苦茶である。
「錘(おもり)〜が旬を駆け抜けて〜グレイ〜の非をえがく〜♪」
「違いますよマサムネ様、もう一度歌詞を見直して歌って下さい。どういう日本語ですか」
むしろ日本語として成り立ってすらいないとすかさずツッコむ側近のリラックこじゅ。
その様子を天井裏から見つめる。
いつ暗殺しようかと機会を伺っている。
余談だがは政宗を見た事がない。
右目に眼帯、三日月の兜をかぶり異国語を喋るという事しか聞かされていないのだ。
そんな訳でしょっぱなからとんだ勘違いをしていた。
それは…リラックマサムネと政宗を間違えている事…。
それ以前に何処をどうしたら人間とクマを間違えるのか、これ又小一時間彼女に問い詰めたいところである。
「マサムネ様、今日はもう遅いですし、そろそろお勉強も終わりにして就寝しましょう。
明日は朝早くに片倉殿と野菜を収穫するのでしょう?」
「of course!明日に備えて寝るか!」
「では私も部屋に戻りますね。お休みなさいませ」
リラックこじゅが一礼し部屋を出て行くと、広い和室にはリラックマサムネのみとなった。
机の上に散らかるドリルを片付け、お気に入りの黄色いビーズクッションを押し入れから出し始める。
完全に無防備だ。
好機、討ち取れるのは今しかない。
は行動を開始した。
「伊達政宗!その首頂戴!!」
「!?」
天井裏から飛び出し襲いかかる。
持っていた短刀でリラックマサムネを刺し殺そうとする。
リラックマサムネはいきなりの事にパニックに陥りながらも必死で避ける。
体勢を整えようとすると頬に苦無がかすった。
血が頬をつたい真っ青になりながら絶叫する。
その間にも容赦なく手裏剣やら苦無が飛んで来る。
「ぎゃああああああ!!危ねぇええ!!」
「ちょこまかと逃げるなー!」
おいおい勘弁してくれ、頭身からして全く違うじゃねーかよ!とリラックマサムネは心の中で叫んだ。
影武者にすらなりきれていないと誰もがツッコむだろう。
とりあえずスリル満載で心臓が爆発しそうだった。
そこへ本物登場。
何も知らない政宗が呑気に部屋に入ってきた。
「どうした、こんな時間にこの世の終わりみてぇな声張り上げやがって…つの虫でも出たか〜?……Ah?」
部屋に入ってきた政宗の目に写ったのは、腰が抜けたリラックマサムネと物凄い形相をした侵入者。
壁のあちこちに苦無が刺さってたり、手裏剣で一部の障子が真っ二つになってたりと何だか色々大変だ。
「…あー、えーと…とりあえずだな、何か恨まれるような事したのかお前」
「ちげーよ馬鹿!!こいつ、政宗は俺だって勘違いしてるみてえなんだよ!冗談じゃねえ!」
「嘘っ!?伊達政宗が二人!?」
「…あんたいっぺん目ぇ診て貰え」
流石の奥州筆頭もこれにはかなり凹んだようだ。
「戦国きっての伊達男」と呼ばれている自分がまさかこんなちみっちゃいクマに間違われる日が来ようとは…。
軽く眩暈を起こし壁にもたれかかる政宗にリラックマサムネが必殺技のマグナムステップをカマしつつ
「俺だって、こんな変態に間違われる日が来ようとはな!」と叫んだ。
考える事は大体同じらしい。
「くっ…影武者とは卑怯な…!」
「ちょっおまっ…これが影武者だと思うか普通!?どう見たってクマ武者だろうが!」
「お前の影武者になんぞなりたくねえよ、you see!?」
「Ah〜?てめぇ、ああ言えばこう言…」
「問っ答っ無用――――――!!」
政宗とリラックマサムネの喧嘩が勃発する前には「こうなったら、まとめて始末する!」と小刀を構え襲い掛かった。
のだが…。
「そうはさせねえ」
「なっ!?」
まず政宗から刺そうとしたの細い腕を、乱入した小十郎が寸での所で掴んだ。
政宗しか見えていなかったは不覚にも小十郎にあっさり捕らえられてしまう。
振りほどこうとするがビクともしない。
の腕を掴んだまま小十郎は政宗に向かって怒鳴り始めた。
「御油断めされるな、政宗様!」
「Ha!俺がんな簡単に殺られるとでも思ったのかよ?心配すんなって」
「万が一という場合もあります!大体政宗様はいつもいつも…(エンドレス)」
又始まったと言わんばかりのお説教。
政宗は適当に空返事をしつつ耳を両手で塞いでいる。
隣にいたリラックマサムネも同じような事をしていた。
その様子を見ていたは兄を倒した張本人はこんな奴だったのかと愕然。
何だか拍子抜けしてしまった。
「とりあえず…そいつ放してやれ」
「なっ…しかし政宗様、この娘は…!」
「俺の言う事が聞けねえのか?」
「命を狙ってるのに」と言おうとしたが、主君にこう言われては返す言葉もない。
小十郎は、黙っての手を離した。
余程、力強く掴んでいたのかの白い腕は赤くなっていた。
「あんた、いっぺん出直してきな。何なら城に居座って俺を暗殺する機会を狙っても構わないぜ?」
余裕の表情には苛立ちを隠せなかった、思いっきり政宗を睨みつける。
しかし彼の言う通り、出直して次の機会を待った方がいいのは確かだ。
双竜を同時に相手では、こちらが不利なのは火を見るよりも明らか。
「後、今度からはクマと人間を見間違えるなよ」と挑発するような態度で付け足すと、
顔を真っ赤にしたが手裏剣を何十本も飛ばし、「Oh〜こえぇなオイ」と笑いながら全て避ける政宗。
避けられて腹が立ったは悔しげに捨てゼリフを吐くと音もなく去っていった。
流石は忍、一瞬で姿も気配も消えている。
嵐が去ったこの場には双竜とリラックマサムネのみとなった。
「よいのですか?又先程のように狙われますぞ」
「んな事ぁ分かってる。だがな、さっきのあいつは…」
「…?政宗様?」
絶対とまでは言えないが、きっとあの娘は自分を殺す事は出来ないだろう。
力量からしてこちらの方が上なのだが、それ以前に短刀を自分に向けた時の娘の手がかすかに震えていた。
いや…かすかなんてものじゃなかった、大分。
恐らくあの娘は人を殺した事がないはずだ。
「…にしても、とんだ災難だったなお前。大丈夫か?」
「全くだ!どっかの馬鹿殿のせいで寿命縮んだぜ」
「つーか、お前何年生きるんだよ」
このふてぶてしい眼帯クマの生態が未だによく分からない、そもそも寿命なんて存在するのだろうかと疑った。
まさかとは思うが、自分が歳をとってもこのままの姿でいるんじゃないだろうか。
政宗の頭にふとそんな考えがよぎった。
NEXT
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久々の短編更新です。
だいぶ前に書いてはあったんですが、そのままだったので掘り返しました。
…いやぁ相変わらず無茶苦茶な文章、目も当てられません(ギャオス!)
何気に続く訳ですが、最終的に相手は佐助か政宗のどっちにしようかで今悩んでます。
うぬぬぬぬ…。
しかし、まさかこんな話に発展するとは思わなかった…(予想外犬)
いや、最初はオールギャグにしようという予定だったんですよ、はい。
ちなみに、つの虫はGの古名。
最初まろ虫(コガネムシの古名)だと勘違いしてました。
どっちにしろ苦手ですがね!!(泣)
ブラウザでお戻り下さい。